2010年3月法話

春という言葉が聞こえてくる3月となりました。暖冬と言われましたが厳冬だった今年、ようやく雪も消えかかり、白一色の世界から彩り豊かな大地の息吹を感じるようになりました。

先月は冬季オリンピックが開催され、毎日血の騒ぐような感動を与えていただきました。オリンピックは国別対抗戦で、その国の旗のもと、国のために戦うというような感じがするスポーツです。しかし各々の選手は自己の技術の鍛錬の発露の一場面で、その時を頂点にもってくることで精一杯でしょう。こちら側で見ていると勝ちたいが為に、メダルを取るためにという意識が強く働くのですが、自分一人が頑張っているのではなく世界中の人が頑張っていて、当然身体的能力、その人に授かった能力で差が出てしまいます。故にメダルを取ったから勝者でとれなかったから敗者とはいえないと思いますメダルを取った人もそうでない人も、そこまでの課程が大事であり、戦い終えたこれからの生活に活かせる大きな財産を生んだことが最も大きな成果だと思います。その意味でその時その時の努力は、その事になりきっているという点では禅の世界に浸っていたといっても良いのではないでしょうか。

また先月は第九教区の一般公開講座「核兵器なき平和への道」が開かれました。文化会館大ホールに700人の人においで頂き、法話・映画「GATE」上映・講演が行われました。原爆の火が今もってともされ続けており、平和な核兵器のない世の中になる時が来るようにと祈りを続けている人がいます。その火を実験最初の地アメリカトリニティーサイトの地で消そうとする2,500kmにわたる平和の行脚のドキュメンタリー映画でした。その行脚の先頭に立った現永平寺監院、大田大穣老師の法話は、そのお姿と温厚な話しぶりに禅の厳しさはみじんも見せない話しぶりで、落ち着いた心を取り戻しやすらぎを感じました。映画の最後の場面、その実験地のGATEが開かれるのかどうか、その行脚の人々の心の強さで開かれたのではなかったでしょうか。真摯な平和への歩みは多くの人々の心を開かせてくれ、GATEも開かれたのです。その様子を淡々と語る監督マット・テーラー氏の話も人々の心をつかみ、これからさらに核兵器廃絶へ向け大きな力となってもらえればと感じました。多くの人に感動で涙を浮かべてもらえたことは、永く心にとどまることでしょう。若い高校生も来てくれて、同じ思いを抱いていただけたことは、世代を超えての平和への願いを感じた次第です。

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さて、年回忌等のご法事の当日、準備が整いますと読経をさせていただきますが、当寺のお経は約30分、その中で3部に分かれております。その最初はいわゆるご祈祷的な意味を持つものと言っていいでしょう。般若心経をお唱えし、全ての世界の人々の安穏を願うことです。回向(功徳を他に巡らす)文で表されております。「曹洞宗回向文講義」を引用させていただきます。

仏事供養を行うに当たって、まず、なにはともあれ、わが宗門信仰の上で、安心の帰依処である一仏両祖に供養いたします。「般若心経」を読誦いたしましたが、読経によって得られる功徳を、仏法の門を開き、正法を教えて下さった大恩のある本師釈迦牟尼仏と、大本山永平寺開山の高祖承陽大師道元禅師と、大本山総持寺開山の太祖常済大師瑩山禅師の一仏両祖に、謹んで供養いたし、この上ない仏の位に達して得られる“さとり”の徳を、いよいよ清らかなものにいたしたいと存じます。

特に、誓いそして願うことは、この世における全てのご恩はもとより、仏法僧の三宝の恩に報い、あらゆる世界の生きとし生ける全ての人々が安らかでありますよう助けまいらせ、全ての人々と共に同じく仏の智慧を、まどかにそなえたいものであります。そして心から祈ることは、この家がいよいよ栄え、子孫が絶えることなく幾久しく続き、いろいろの災難や障害が消えて無くなり、何事もめでたくありますように。